そのオトコ、要注意。


ふう、と息を吐く目前の彼のお人。


「ありがとね、環奈。正直、助かったよ」

後ろから覗き込んで、ナイスタイミングで救ってくれた親友に礼を言う。


いつ見ても隙のない顔立ちは、今は不敵に微笑みあたしを視界に映す。

そう、あたしはこの時環奈の性格を完全に忘れていた。


「礼なんていいわよ、別に。昼休みの時間たーぁっぷり使って、一つずつ事細かーぁに話してもらうから」

あ、もちろん放課後もねー、と語尾にハートマークがついてきそうな、あまりに楽しげで容赦ない布告に、この親友だけは絶対敵にまわしてはいけないと改めて固く誓った。



トホホ…と自分の席に戻ったあたしは、ふと隣を見遣る。

そういえば、教室を出て行ったきり帰ってきてない。

少し行方が気になったが、探しに行くような、そんな真似はしなかった。

(どうせすぐ戻ってくるだろうし)


……でも。

授業が始まっても有栖川ルイがここに戻ることはなかった―――




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