そのオトコ、要注意。
横から伸びてきた腕に襟元をグッと掴まれ、完全に不意打ちを喰らった俺はその力に抗うことはできなかった。
「――…後なんて付けてきちゃって。いつの間にそんな悪い子になったんだ?」
ねえ、ルイ?と問い掛ける目の前のこいつは―――
「お前こそ。相変わらずのようだな」
皮肉を込めて言い放つ俺をさも可笑しそうにクスッと笑い、襟元の手を離した。
「君はまた随分と楽しんでるみたいだね」
壁に背を預けこちらを窺う目からは感情が読み取れない。
今のこいつは、…腹の底が知れない。
からかっているのか、厭味なのか。
自然と返す言葉に冷気がこもる。
「…何の話だ」
たぶん、こいつはいろいろ気が付いているんだろう。
向こうはここに俺がいるのを知ってたみたいだからな。
…が、わざわざ口にして教えてやることもない。
相手の目的すらわかっていないのに。
「惚けるつもり?……まぁ、いいけどね」
そう言ってまた微かに笑った。
閑散とした廊下に響き渡る始業の鐘の音。
まるで俺に時間はないのだと警告するように―――
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