そのオトコ、要注意。


身体を反転させ、一歩踏み出したそのとき。


(…っ?!)

背中から何かがフワッとあたしの身体を包み込む。


「……ぁ、」


嫌でもわかってしまう。

ほんのりと香るシトラスの香り。
細いながらも逞しい腕。

以前と何一つ変わらない。


それら全てを自覚した途端にあたしの心臓が早鐘を打つ。

身体中の神経が反応しているみたいで。


そうした自分がいることにあたし自身が戸惑っていた。


硬直したままどうすることもできないでいると、頭上から深いため息が。


「……遅い」

「っ、な…!」

「あんまり遅いから待ちくたびれた」

そう言って、あたしに体重をかけるように大きくもたれ掛かる。


近すぎる距離に、胸の鼓動が背中越しに伝わってしまうんじゃないかって。

だって、有栖川ルイの顔があたしの首に埋められている。

柔らかいブロンドが首筋をくすぐり、微かに身じろぐと「ん?」と、惚けた声が返ってくる。


「や…!離して……っ」

「お前が早く来ないのが悪い」

「〜〜〜……っ、」


(もうっ、何なのよコレは!)


だんだんと投げやりな気分になってきたのも仕方ないと思う……。



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