そのオトコ、要注意。


生誕パーティーとは名ばかりで実際はそんな可愛いものではないのだと、年齢を重ねるにつれ嫌でも気づかされた。

周りは彼の大企業『有栖川グループ』に取り入ろうと他人を蹴落とし、舌なめずりしながらあの手この手で迫る。


そんなことが平然と行われるこの世界に辟易とするが、それでも相手をしない訳にもいかず、俺はただ笑みを絶やさない従順な社長子息を演じた。

来る者来る者に。


そうしてひとしきり招待客の祝福をあしらった後、また人が集まる前に俺はこっそりバルコニーへ抜け出した。


†††

「ふぅ………」

外は冬の訪れを告げるように、冷えた空気が気持ちを少し落ち着かせてくれた。

ネクタイを緩め、そのまま細やかな彫刻が施された手すりにもたれ掛かる。


胸のうちのざわめきも収まった頃、静寂を打ち破る何かが遠くから聞こえてきた。

それは急速に大きくなり、やがてそれが泣き声だということがわかった。

………女の。


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