そのオトコ、要注意。
自覚、…そして
トクン、トクンと規則正しく響く心臓の音が聞こえてくる―――
藤代祥弥が突如として現れてから感じる胸騒ぎ。
――またどこか行っちゃう。
そう思ったら、反射的に身体が動いた。
心底、『嫌だ』と思った。
湧いたざわめきを掻き消すように、広い胸にしがみついた。
「………か、…っ」
「……?」
「勝手に、いなくならないでよ…」
消えたら、…最後。
もう、二度と会えないんじゃないかって。
有栖川ルイが小さく息を呑む。
その顔は驚愕に染まっていたが、詰め寄るあたしからは見えなかった。
もちろん、本人がそう言ったわけではない。
だけど……。
有栖川ルイは何も言わなかった。
ただあたしの頭を、大きな節張った手で撫でる。
そんならしくもない行動に、また一抹の不安が残った。
――それと同時に気づいたことがある。
モヤモヤの正体ともいうべき、あたしの奥に眠ってた感情。
この胸の痛みも。不安も。
きっとあたしは、有栖川ルイのことが……。
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