そのオトコ、要注意。
むっ、と睨んだが相手に通じるはずもなく、結局はあたしが折れる始末。
あたしは内心恨めしげに睨みながら、ため息をついてから話を促す。
「それで?さっきあんなことをした理由は?」
「…………」
「…………っ、」
(反応なし…!)
たっぷり間をあけて漸く返ってきたのが、コレ。
「あんなこと、って?」
「………、はい…?」
惚けた答えとは裏腹に、顔は笑っているような。
(なんだか会話の流れがよろしくない…)
「だからっ!午前の公演で…っ」
「午前の公演で?」
「最後、白雪姫が助かるとき…」
「口づけをした、ってやつか?」
「うん、そう……―――え、」
文字通り、固まる。
「なんだ、それのことか」
至極普通とでも言うような物言いに、目を見張った。
「ちょっ、よくもそんな平然と……!こっちがどんだけ焦ったと思って……っ、」
「あれ、焦ってたのか」
ふーん、とこちらに唐突に顔が寄るもんだから。
「っ!寄るな!このキス魔ぁ!」
さすがに声が大きかったみたいで、怪訝な視線が再度集まり、隠れるように下を向く。全然隠れるわけもないが。
耳まで赤く染まるあたしを見て、この男は低くくつくつと笑うのだ。
…全く嘆かわしいったらない。
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