そのオトコ、要注意。


むっ、と睨んだが相手に通じるはずもなく、結局はあたしが折れる始末。

あたしは内心恨めしげに睨みながら、ため息をついてから話を促す。


「それで?さっきあんなことをした理由は?」

「…………」

「…………っ、」

(反応なし…!)

たっぷり間をあけて漸く返ってきたのが、コレ。


「あんなこと、って?」

「………、はい…?」


惚けた答えとは裏腹に、顔は笑っているような。

(なんだか会話の流れがよろしくない…)


「だからっ!午前の公演で…っ」

「午前の公演で?」

「最後、白雪姫が助かるとき…」

「口づけをした、ってやつか?」

「うん、そう……―――え、」


文字通り、固まる。

「なんだ、それのことか」

至極普通とでも言うような物言いに、目を見張った。


「ちょっ、よくもそんな平然と……!こっちがどんだけ焦ったと思って……っ、」

「あれ、焦ってたのか」

ふーん、とこちらに唐突に顔が寄るもんだから。

「っ!寄るな!このキス魔ぁ!」

さすがに声が大きかったみたいで、怪訝な視線が再度集まり、隠れるように下を向く。全然隠れるわけもないが。

耳まで赤く染まるあたしを見て、この男は低くくつくつと笑うのだ。


…全く嘆かわしいったらない。


.
< 138 / 142 >

この作品をシェア

pagetop