そのオトコ、要注意。
「なに、もしかして『初めて』とか?」
ブチィ。
「あんたってサイッテー…!」
あたしは奴の頬に向かって平手打ちをかました。
が、出来なかった。
瞬間、あたしと距離をとられ、奴はすんなり軽くかわした。
「っと。――まぁ、今日はそれなりに楽しめたし、俺はこれで帰るが」
ご機嫌も損ねちゃったようだし、と至極楽しそうに笑みを浮かべるお前は、どこぞの悪魔だ。
今だ感触の残る唇を拭いながら、無言で睨みつける。
それを一糸乱れぬ笑みで一蹴され、背を向けて帰って行く。
何故だかこちらが負けた気すら…――
有栖川ルイの後ろ姿を見つめる。
不意に、少し癖づいた柔らかそうなブロンドが振り返った。
「俺はあんたじゃなくて、ルイだから」
奴はあたしを見てそう言うと、再び背を向ける。
「父君によろしく、美羽」
「…え?」
それだけ言うと、奴の姿は見えなくなった。
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