そのオトコ、要注意。


顔を上げると、そこには男の顔――――

顔、……っ!?

後ずさり、というより軽く尻餅をついてしまった。


「あ。ごめんごめん。そりゃびっくりするか」


そう言って頭を引っ込めてくれたけど、そのままの体勢で立ち去ろうとする気配がない。


な、なに…この人。

「えっと……?まだ何か…」

恐る恐る見上げると、ニッコリと笑顔を向けられた。

「その様子だとなんともないみたいだね」


誰もいない廊下の片隅でしゃがみ込んでいたことを言っているらしい。

「……、始めから別に何もないですよ」

スクッと立ち上がり話を切り上げた、……なのに。

後ろ手を引かれ、それは叶わなかった。

「じゃあ、なんでうずくまってたの」

はい?

「こんな誰もいない廊下で、一人」

「……………」

答えに迷っていた。

というより、自分でも答えらしい答えが見つからないことに改めて気付かされて、……ショックだったのかもしれない。

為す術もなく立ち尽くす。


気付くと男は「ま、いっか」と立ち上がっていた。
もうこの話題は終わったらしい。

雰囲気的に先輩…って感じだけど。

横顔をまじまじと観察してやると、なかなか整った顔立ちをしている。


……、うん。

有栖川ルイとはまた別タイプの美形だ。


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