そのオトコ、要注意。

――――…


「有栖川くんが登校してるって!」

朝の混み合う玄関口で興奮気味に話す女子の声が耳に滑り込む。

一瞬、思考が停止しかけた。
が、なんとか復活。


そして走馬灯のように思い出すのは数々の不満たち。

あたしを実行委員に巻き込んでおいてトンズラかましたあいつに、文句の一つも言ってやらないと気が済まなくなって教室へと急ぐ。

(今頃戻ってきて…!あたしがどれだけ大変だったことか!)

それでも、あの台本と紙のお陰でなんとかなったことについては、…今は忘れよう。


教室前の廊下にはすでに人だらけ。
その中心に柔らかい光を放つブロンドが見えた。

駆け寄ろうにも、前を阻む人垣に内心で悪態をつく。
それでも掻き分けて少しずつ近づいていった。


(あともうちょっと……)

だけど、神様はあたしにとことん意地悪をしたいらしい。

気づいたときには誰かの足につまずいていた。

「……っ、」

今思えば、踏ん張って持ち直そうとしたのがまずかった。
足首辺りにピリッと嫌な痛みが走る。

(やば…!)

そう思った時にはすでに遅し。

捕まるところもなにもなく、バランスを崩したあたしの体は当然のように床に倒れ込んだ。


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