そのオトコ、要注意。


途端に響き渡る女子のキャーという嬌声。

あたしは突然、自分の身に起きたことにギョッとした。

そう、あたしは人生初の所謂『お姫様抱っこ』をされていたから。

有栖川ルイは険しい顔をしていて、そのまま人垣を越え、スタスタと歩き始める。


「ちょ、ちょっと待って!」

すごく。
すごく自然にやってのけるから思わず流されちゃったじゃないか。

「待たない」

「なっ…!いいから降ろして!」

「無理」

無理って…!

ギャラリーは越えて見えなくなっても、当然廊下にいる生徒とはすれ違うわけで。
その度に好奇の眼差しを向けられてるんだから、堪ったもんじゃない。

(せ、せめてこれはやめてくれ…!)

ぶつぶつ悪態をついてると容赦ない一言が。

「いい加減、ちゃんと掴まってねーと落とすぞ」

「!」

その顔は本気でやると思う。
考えただけで背筋がゾワッてして、慌ててしがみついた。

そんなあたしにため息をつく。

「降ろしたってその足じゃどうせ歩けねーだろ」

いつの間にか裏仕様の言葉遣いになっている有栖川ルイは、どことなく余裕がなく感じられた。

こんな顔もするんだ…、なんて場違いなことをぼんやり思いつつ、されるがままに保健室へ。

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