そのオトコ、要注意。


あたしの言葉に、軟膏を塗る手が一瞬止まる。

「…その質問には、悪いが答える気はない。お前に迷惑かけたことは謝るが」

突き放すような言葉。
線を引いて、その内側に入ることを拒んでいるかのよう。


(…そんな顔しないでよ)

さっきみたいに怒気を含んでいるような表情。

「……っ。だから降ろして、って言ったのに」

そこまで言うと、さっき感じた不安がフラッシュバックしてきて。

「は?なんの話……」

「さっき。運んでもらってたとき、怒ってた…。あたしが原因でしょ…」

その整った顔がしかめられた。

「ますますわかんないんですが」

ちょっと…、ここまであたしに言わせる気?

「だから!あたしが…っ、お、重くて、怒ってたんでしょ!?」

一気に言い切る。

までは良かったが、固まった空気にいたたまれなくなり、部屋から抜け出そうと勢いよく立ち上がったのが悪かった。

……怪我を忘れて。

足をついた途端にビリリと電気が走ったような感覚。

そのままバランスを失ったあたしは、またしても床に一直線。

衝撃を恐れて咄嗟に目を固くつむる。


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