そのオトコ、要注意。
「そんなに怖かった?だったら逃げるスキなんていくらでもあったと思うんだけど」
壁に軽くもたれてこちらを窺うその顔は心なしか笑っている。
「あなたには関係ないですから」
まだ力の入らぬ足に歯を食いしばりながらそう言うと。
「あぁ。その足じゃどっちにしろ無謀か。なんだっけ、『お姫様抱っこ』…だっけ?」
思わず「は?」と零しそうになったのを慌てて飲み込む。
「なんで、あなたが…っ」
「そりゃあ、あの場に居合わせたしね。イイモノ見させてもらっちゃったよ」
クスリと瞳を閉じて笑うやけに整った顔を殴り倒してやりたい衝動に駆られたが、あたしの足はまだ言うことを聞いてくれそうにない。
「そろそろ戻ったらどうですか。授業始まりますよ」
だからあたしは、早くこの人があたしの目の前から去って欲しくて言っただけなのに。
「そうだね。じゃあ行こうか、……一緒に」
「…、は?」
今度は堪えきれなかった。
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