人間二重奏
「姉ちゃん…」
穂香がスクールバッグを持って部屋を出ようとした時、ドアのところに弟の弘輝(ヒロキ)が立っていた。
「あ…弘輝おはよう!」
穂香は沈んだ気持ちを隠すかように、不自然なくらい明るく声をかけた。
それなのに、弘輝は何も言葉を返さないで、ただ穂香の顔をじっと見ている。
「どうした…?あたしの顔に何かついてる?」
弟が目を見開いてしまうのも無理はなかった。
穂香の目にすら、今の自分の姿が別人のように映っていた。
彼女を知る人でこの変貌に驚かない人はまずいないだろう。
まして弘輝は15年間、ほぼ毎日顔を合わせてきた“家族”なのだ。