夢列車
朝露
夏の日太陽はせっかちだ。わざわざこんな早朝から私を叩き起こすんだから。
今は6時20分。集合時間まであと2時間ちょい。移動時間も考えれば、予定より50分ほど早く着いてしまった。

「あぁ、眠い……」

誰もいない駅のホームでつぶやいた。

ここは某県の無人駅。別に『無人』なんて変な駅名なんかじゃない。

その方がまだマシだ。

無人駅っていうのは、線路にホームをくっ付けただけの何もない駅のこと。

駅員どころか改札もない。自販機とベンチが設備の全て。

はっきり言って『ド田舎』の象徴みたいな駅だ。

どうして今、私がこんな何もない駅に朝早くからいるかというと……。

――映画を見るためだったりする。

同級生の二人と最新の恋愛映画を見ることになって、1時間かけて列車で街まで行かなきゃいけないのだ。

田舎ではよくあること。
都会なら絶対にもっと速く行けるはずなのに。

なんでも駅をいくつかスルーする『急行』とかあるらしい。たぶん『特急列車』みたいなものだと思う。
……乗ったことないから想像だけど。

――良いなぁ、都会人は。きっと雑誌とか取り寄せしなくてもそろうし、24時間の食べ物屋が近くにあるんだろうな。

近所のマック、8時で閉まるんだよね。

いつか私も、都会人になるんだ。

どうせだったら東京!

東京の大学に行って、夜遊びとかしてさ!

表参道とか歩いて、スカウトに声かけられして!

そうしたら、私――げぇのぉ人、とか?

すっごぉおおおおいっ!

1人、駅のホームで夢を膨らませる私。

狭山梨花(さやま りか)。

高2の夏。
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