夢列車
だが、翔はそんな私の内心などお構いなしだ。

それはそれは本当に楽しそうに笑いかけてくる。

私はボロが出ないか冷や汗ものだった。

「ギターですか! 凄いですね!」

「い、いやぁ……そんな大したことは……」

語尾が弱々しい私。

「いえ! お友達とバンドなんて素晴らしいことだと思います!」

どこまでも笑顔の翔。

「はは……。まだ、未熟だけど」

「そんなの大した問題じゃあないですよ!」

「そ、そう?」

押しきられる。

さっきまで私に負い目を感じて落ち込んでいた人間とは思えない。

その瞳はキラキラと輝いて、さっきから口にする言葉は本心からのものであると伝わってきた。

その分、本当のことを言ってないことが心苦しい。

誤解しないでほしいが、嘘は一度もついていない。

ちょっとだけ都合の悪い真実を話さないだけ。

翔を騙してはいない。

……引け目は感じるけど。

「大事なのは、好きなことに一生懸命になることですよ! 上手下手は関係ありません」

翔は力説する。

その気迫に私は呑まれてしまった。

そこで翔は私の様子に気付き、バツが悪そうに目を逸らした。

「す、すみません。熱くなってしまって……」

「いや、別に気にしないで」

他の言葉が思い浮かばなかった。

かろうじて思考に引っ掛かった文章を、古いおしゃべり人形のように単調に呟いていた。

翔はさっきまでの勢いはどこへやら。また小さくなってしまう。

私は攻勢に転じた。

「翔は、そういうのやらないの?」

「今のところ、その予定はないですね。楽器は嫌いじゃないですけど、今は他にやりたいことがあるので」

「やりたいこと?」

「ええ」

「聞いても良い?」

翔は初めてためらった。

わずかな沈黙が流れた。
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