夢列車

自覚

『好きな人ができた』

「は?」

『好きな人ができた』

親切に二回も言ってくれる親友2人。

ちゃんと聞こえてるって。

OK。ここで少し冷静になろう。

今、2人はなんと言った?

できた? なにが?

え? 好きな人?

だれに? 私?

はは。面白いジョークだ。

「なにそれ? 初対面で好きになるわけないでしょ?」

私は若干怒り気味に言った。

そんな風に変な勘ぐりをされるのは腹がたつ。

だが、2人はそうは受け取らなかった。

『やっぱり』

声を揃えて私にじとーっとした視線を向けてきた。

私の不快感が最高潮に達する。

「もう、何がやっぱりなの! はっきりしてよ!」

私の剣幕に2人は顔を見合せ、お互いにボディランゲージで、どうぞどうぞと譲り合う。

待たされる側は非常に苛つく光景だ。


「えっと……」

口を開いたのは詠美だった。

なんらかの意志疎通があったのだろう。詠美は軽く茜を睨んで、やれやれと言いたそうに首をすくめる。

「いつもなら、梨花さん、こう言ってるはずですよ」

「こう、というと?」

そこで詠美はもう一度茜を見る。

茜もあごで促した。

今のは私でも分かる。こういう感じだ。

――本当に言うの?

――Let's Go!

こんな所だろう。

勝手に自分のことが、私自身の預かり知らない場所で理解されるのは納得がいかない。

とんちんかんなことを言ったら、全力で抗議してやる!

そう思いながら詠美の言葉を待つ。

もっとも、詠美が私に言ったことは、そんな怒りを消し飛ばして余りあるものだった。

「〈私、別に恋愛する予定ないし〉、ですよね?」

「へ?」

それは恋愛ネタを流すときに私が使う常套句だ。

「今回、なんて言いました?」

……なんだったっけ?

………………思い出したぁああああああああああああああああ!
< 21 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop