夢列車
「えっと、ごめん。意味が分からない」

これは茜の本心だろう。鈍いわけではないから、想定にないので、理解が追いつかないだけだろう。

だから詠美は、できるだけ分かりやすく説明する。

本来なら当事者の私がすべきことだが、詠美ほど頭も良くないので、黙っていた。

「梨花さんは、容姿が好みの男性に、自分の理想を投影しているんじゃないかって、思ってるの」

「理想の投影?」

「きっとこういう人だ。無意識にそう相手を決めつけて恋したんじゃないかって」

そう。

私の懸念もは正にそれ。

私は翔に恋したのではなく、私の好きな理想の男性が翔だと思っているかもしれない。

それはひどく惨めで無礼だ。

現実の人間ではなく、都合の良い妄想の男しか愛せない。

惨めだ。

翔自身ではなく、妄想のフィルター越しに見る翔へのときめき。

無礼だ。

だから私は自分の気持ちに自信が持てない。

私が苦しいのは良い。

私が悲しいのは良い。

私が傷つくのは良い。

ただただ、翔を苦しめるかもしれない。

それが怖い。

翔を悲しませるかもしれない。

それが怖い。

翔を傷つけるかもしれない。

それが怖い。

私は、そんな恐怖を抱えていた。

「だから、梨花さんははっきりと、相手の男性を好きだと言えないの」

神妙な面持ちの詠美に私は感謝した。

気づかなかったか、目を逸らしたか。

どちらにしても、詠美がはっきりと言ってくれたことで、私は私自身の問題を知ることが出来たのだ。

理解したら、後は自分の問題。

私がいかにして、自分の心と折り合いをつけるかだけだ。

……そのはずだった。

「なんだそんなこと?」

茜は呆れたようにため息をつく。

私は思わず目を見開くのだった。
< 28 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop