夢列車
「そう言えば、まだ名乗ってませんでしたね」

彼はそう言って姿勢を正した。

「僕は瀬戸翔(せと かける)です。一応大学院生をしています」

「あ、私は狭山梨花です。梨花でいいですよ」

「じゃあ、僕も翔と。呼び捨てで構いませんよ。敬称は慣れていないので」

その瞬間、私の脳がオーバーヒートしたのは目の前の彼には内緒。

「う、ぁ……。か、かけ。かけ……」

「はい」

あぅぅ。『る』が、『る』が出てこない……。

き、緊張するよぅ。

……いやいや! ただ名前を呼ぶだけ! 名前を呼ぶだけ!

この程度で狼狽してどうする、狭山梨花! そんなんでこれから先やっていけるのか! いやいけない!

……待て、私。

先って何?

…………。



いやぁあああああっ!

無理! 無理無理無理!

そんな、彼と×××して○○○で□*%♂♀☆@!
今日会ったばかりの人と、なんて!

でも、そういう人もいるらしいし、彼、おしゃれだから当たり前なのかも……。

ど、どうしよう……。求められるのかな?

今日の下着、どんなのだっけ?

「どうしました?」

「スーパーで安売りのやつだった!」

「何がです?」

「そんなの決まって――」

今、何を口走ろうとした、私?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
「ななななななな! 何でもないの!」

「はぁ」

呆れてる! 完全に意味不明って顔してるよ!

誤魔化さなきゃ! なんとしても!

「もう、本っっっっっっっっ当に何でもないから! 気にしないで! 乙女的に!」

「乙女的?」

「そう! お願い、翔……」

「――はい、梨花さん」

クハッ!

ハートに直撃ぃ!

笑顔が輝き過ぎっ!

ああ……もう訳が分からない……。
< 6 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop