夢列車
「それは――」

恐る恐る答える翔。

私は黙って次の言葉を待った。


「……梨花さん、また敬語に戻ってるので」

はて?

私は内心首を傾げる。翔の言っている意味が理解できない。

戻った。つまりは敬語以外で喋ったということだ。

そんな、初対面の年上の人にいきなりため口なんて――。




《ななななななな! 何でもないの!》



言ってた……。

パニックになって咄嗟に……。

だがそこで、私は思い出してしまった。

1つの記憶は、連動して余計なものまで、再生しやがった。



《もう、本っっっっっっっっ当に何でもないから! 気にしないで! 乙女的に!》

《そう! お願い、翔……》




……………………。

何、乙女的って。意味不明なんですけど。

何が、「お願い、翔……」よ。

そういうのは、もっとロマンチックなシチュエーションで言ぇえええええええええええっ!

今日はどうかしてる、私。

「そ、そんなことないで……ない、よ?」

勢いで普通に言えた私が羨ましい。

砕けた会話の難しさを実感する。

むしろ私の理性が砕けそう……。

でも、ため口じゃないと疑惑を拭えないし……。

「そう、なんですか?」

「はい――違っ! そう!」

慌てて訂正。これ以上翔に私のことを誤解されたくはなかった。

私は勢いに任せた。

「楽しいよ! 私、今高2だけど早い友達は受験勉強始めてるし! 私も大学には興味あるから!」

「そうですか、良かった」

ニコリと笑う翔。

私はそれに胸を撫で下ろした。

「そうだ! 私は、聞きたいことがあったのだ!」

わぁーい、完全にテンション暴走だぁ。

いいや、行っちゃえ〜。

「翔がさっき落とした紙ってなんだったの! 良かったら教えて欲しいな!」

あ、終わった……私。

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