童貞狂時代
ある日いきなりデイケアにサングラスをかけたいかにも新宿の歌舞伎町お似合いな格好をした十九歳くらいの青年高井が新メンバーとして入ってきた。デイケアにいるジャンキー達にはかわいがられいきなりデイケアに馴染み、はしゃいでいた。看護婦を口説くこともあった。もちろん冗談だろうが、精神科のデイケアというのはあくまで心の病の人たちの治療、社会復帰への訓練の場のはずである。僕は冗談だろうがそんな看護婦をナンパするなんていう行為自体にひどく腹が立ってしまった。看護婦はうれしそうにもうちょい大人になったらね、などと注意するどころか 会話を楽しんでいる。もちろん冗談のナンパを冗談で返し断ってはいるが、ひきこもり状態からなんとか抜け出し真剣に社会復帰を目指して対人恐怖症の為にジャンキーたちが怖いのを我慢しながら毎日精神科のデイケアに通う僕やその他の対人恐怖症気味の人にとったら、看護婦の対応は絶望を感じさせるものだった。童貞の嫉妬心は大きくくすぐられた。女性への自信がまた擦り減ってゆく、僕のなかで…。
 「久米クリニックのデイケアなんて糞食らえ!」そう何回も思った。ほとほと嫌になってきていた。疲れていた。
 
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