君が笑うなら


「…だからって、
こんなとこ1人で来んなよ」


はあっ、とわざとうざそうに溜め息をついた。


本当は、
心臓が普段の倍ぐらい音をたてて
呼吸もままならないのに。



「…ごめんね。
でも、来てよかったよ。
独りぼっちで泣く人を、
慰めてあげられるから」


そう言って
差し出されたハンカチに、
俺はかなり戸惑った。



「……!」



気づかなかった。
自分の頬が濡れていたことに。


胸の痛みも、
高鳴りで揉み消されていた。


…いや、
揉み消されていたんじゃない。
胸の痛みに、慣れすぎて。
それが普通に感じていた。



「……んだよ、それ」


目を背けながら言った。


「いらねーよそんなの」


「…そっか」


そう言ってハンカチを引っ込める。
少しぐらい傷ついた顔すりゃいいのに。
相原舞はやさしく笑うから。



「もう帰れよ」


「ううん、
元気になるまでここにいるよ」



あんまりやさしく笑うから、
思わず母親と重ねて。

違う女だとまた気づいて、
その次にはすうっと安らいで。



ああ なんてこった
俺は重症かもしれない

そんなもの抱く資格すら
もう持ち合わせていないのに


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