君が笑うなら


伸也にとっての直樹の記憶は、
いつのまにか改心を懇願する姿で埋まり、
幼い頃毎日悪ふざけをして
伸也を呆れさせた直樹は
記憶の彼方へ追いやられていた。



「いつもお前は、
俺にそんな目をむけた」

「…そうだったかな」

「そう。
お袋さんを必死で支え、
痣が会う度増えても、
いつでも真面目で、
前向きだった」

「…真面目って……
お前がふざけすぎてたんだろ」


…今となっては、
当時の直樹のくだらない行動も
俺を笑わせようとしてやったことなんだろうと
解るけどさ。


そう思って、
伸也は少し笑った。



「…笑った」



それを見て、直樹も笑った。



「…逆境にも負けず、
いつでも頑張ってるお前は、
俺の憧れだったんだ」

「……」

「もう、頑張らなくていいから
疲れてしまわないように
困ったらいつでも呼んで」

「…大きなお世話」

「…そのセリフにも慣れたよ」

「…呼んでどうすんだよ。
お前にはなんも得ねーぞ?」

「…わかってないなぁ
俺はなんだってやるよ。
君が笑うなら。」


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