Bremen
「やめな、オッサン。
せっかくの酒がマズくなる」
店の入口付近……
カウンターの端で独り飲んでいた若者が、脇を通り過ぎようとした無法者の腕を掴む。
「痛っ!
何だ、テメエはっ!
何か文句があるのか!?」
「文句?
大アリさ。
お前さんのダミ声は、耳を汚す雑音でしかない。
それだけで十分文句を言う理由だろう?」
若者は席を立ち、男に向かい合った。
年齢は20代前半といったところか。
端正な顔と鋭い眼差しを隠すように、目深に被った鐔(つば)の広い赤い帽子。
その帽子には長く白い羽飾り。
埃で汚れた灰色のマントの上には年代物のアコースティックギターを背負っており、その身なりから流れ者だと容易に推測できる。
「俺の声が………
雑音だとぉっ!?
聞き捨てならねぇっ!」
ちなみに『雑音』という言葉は、スコアでは最低級の侮辱を意味する。
「フン。
お手本を見せて欲しいとか言ってたな、オッサン」
若者は男の腕を離して突き飛ばし、背中のギターネックに手を掛けた。
「なら俺が教えてやるよ。
本当の演奏ってヤツをな」