Bremen
モビィディックの操縦には、通常の船舶と同じく舵輪を使う。
無論、キャタピラで走行中の進路変更も同様だ。
操舵士よろしく舵輪を逆手に持ち、コンパスと前方を交互に見ながらスネアがバードに語りかけた。
「ところでバード。
なかなか機会が無かったから聞けなかったが……
お前はカンツォーネの人間じゃないんだろ?
ジョウルリの出身なのか?」
操舵室の隅に座り込んで、ギターの弦を巻きながら張りを調整していたバードは、スネアの質問に手を止めて答えた。
「いや。
だがジョウルリには行ったことがある。
カンツォーネと違って砂漠や荒野は無いし、環境も整っている。
ただ、文化が特殊だがな。
カンツォーネで当然と思っている常識も、ジョウルリでは通用しない場合があるから気をつけろ」
それだけ言うとバードは、
「少し仮眠を取る。
何かあったら起こしてくれ」
立ち上がって操舵室を出て行った。
(今の答えから察するに、バードの故郷はカンツォーネでもジョウルリでもないみたいだな。
それに態度が気になる……
過去を話したくないのか?)