Bremen
 
「………貴方を『見える』内に、抱き寄せて下さらないのですか?」


ウズメはバードの側に寄り添い、懇願するような視線でバードの顔を見上げる。
その瞳を見返すバード。
しかしバードの瞳は冷ややかだった。


「…………あの日、必ず戻ると言った。
その約束は果たした。
ま、俺がジョウルリを出て行った理由を知っているのはお前だけで、そのせいでワオンには相当恨まれちまったがな。
…………今、お前を抱くことは簡単だ。
しかしそれでは、俺が『情に流されるな』と説いたワオンを裏切ることになる。
俺が感情を爆発させた時に止めてくれたスネアもな。
奏者としての使命を果たすまで、俺も私情を捨てる。
だから……………!?」

ウズメが突然、話している最中のバードの唇を唇で塞いだ。
時間は夜風と共に流れる。
しかしバードとウズメの時間は、ほんの少しの間だけ止まった。

ウズメは自ら身を離し、僅かに寂しげな微笑みをバードに向けた。

「貴方は本当に不器用な人。
分かっています………
だけど、夜だけ目の見える『月夜見(つくよみ)』の私の……
貴方を見ることのできる時間の、ほんの少しだけの我が儘。
この今の時間だけはジョウルリの姫でなく、貴方を想う一人の女で居させて下さい………」

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