KING CASTLE
「あー…」
抱きしめながら伊吹は、何か言いたげに声を漏らす。
ひんやりとしてるのに冷たさを感じさせない手のひらをそのまま動かしながら、伊吹にしては珍しく迷ったように言葉を濁した。
気になったけれどこの空間が、酷く落ち着く。
伊吹のおかげで、あの嫌な空音が聞こえないみたいに思えた。
「だから、…俺はお前を、怒らせたかったんじゃねえから」
口籠りながら耳元で小さく話す、そんな声が聞こえる。
その言い方で、あのとき──喧嘩っぽいことをしたときのことだとわかった。
「…だって、不機嫌だったし…」
「それはお前が悪い」
即答されて、伊吹の胸に顔を埋めながら眉根を寄せた。
なんであたしが悪いわけ?
ぼんやりと思う。
不機嫌だった理由なんて、あたしのどこにもないじゃない。
「あのときはお前が、変な男にのこのことついていったのが悪ぃんだよ」
変な男って…篠原君は変じゃないよ。
なんて言い返す気力がない。
なんか、すごく眠い。
雷が鳴ってる日はいつも眠れなかったのにな。