忘却は、幸せの近道

助け

「梨依、やめろ。」


聞こえるはずのない声が聞こえた。


私は、ゆっくりと振り向いた。


「卓、助けて。」


私、その場で泣き崩れてしまった。


卓は、私に駆け寄って抱きしめてくれた。


「梨依、どうした?」


卓は、私を宥めるように優しく頭を撫でてくれた。


「屋上に来なきゃよかった。
真実を求めなきゃよかった。」


「梨依、もしかして.....」


声だけでわかる。


卓が不安げに聞いてきたことが。


「思い出しちゃった。」


私は、卓を見上げた。


「なんで、屋上に来た?」


そりゃ、そうだよね。


私が部屋から出ないようにしていたんだから。


「わからないけど、そんな衝動に駆られたの。
屋上へ向かいながら、倒れた日の事が走馬灯のように映像が流れてきたの。
記憶が戻るって思った。
けど、怖くなって。
病室に戻りたかったの。
でも、足が屋上へ向かうのをやめてくれなくて。
それで気づいたの。
あいつが、私の闇の部分を巣くっていたって。」
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