120円の恋心
120円
「女風呂、ノゾキにイクしかないっしょ」


 背中側から、はしゃいだ声が上がった。

なんで高校の修学旅行が京都なんだよ、と文句ばかり言っていた彼らが、一番楽しんでいるようだ。


 荻窪はひとり、窓際に置いてあった椅子に腰掛け、旅館の外を眺めていた。

順序良く整列した歴史を感じさせる建物の屋根に、五月雨が降り注いでいる。

鉛色の空から垂れる雫は止む気配がない。

天気予報によれば、この修学旅行中はずっと降り続けるようだった。


「おい、荻窪」


 声をかけられ、荻窪は振り向いた。ジャージ姿の男3人組が、目をぎらつかせていた。

ひとりはデジタルカメラ、別のひとりは懐中電灯、もうひとりは旅館の案内図を持っている。


「俺っちたちは女風呂ノゾキにイクけど、荻窪はイカないよな?」


 行くわけないよな? という口ぶりに、荻窪はやはり、とため息をついた。

ノゾキに行きたいわけではない。

だが、普段仲良くしているメンバーから外されるのは、複雑だった。


「……………………うん」


 しかたなく、返事をした。仲良くしていたければ、反論しなければいい。

なにも考えず相手の思うまま、うんうんと返事をしていれば、平和は保たれるのだ。

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