120円の恋心
「待ってください」


 広間に響いたのは、麗華の声だった。

小走りで近付いてきた麗華は、ハアハアと息を切らしながら、荻窪の横に並んだ。


「荻窪くんはのぞきなんかしてません。今までずっと、私といっしょにいましたから」


「マジかよ、荻窪。ふざけんなよ!」


 ジャージ3人組のリーダー格が、荻窪に向かって叫ぶ。


「麗華は俺っちが狙ってんだよ。知ってんだろ? おまえ、麗華には興味ないんじゃないのかよ」


 簡単に返事をすることは出来ない。荻窪も、麗華のことが好きなのだ。

黙していると、麗華が口を開いた。


「狙うのはかまわないけど、私は荻窪くんのほうが好きよ」


 それがリーダー格に大ダメージを与えたようだった。

「グフッ」と喉の奥から奇妙な音を出し、グッタリしてしまった。


「さ、コーヒー牛乳買いに行こ」


 麗華に手を引かれ、荻窪は売店へ入っていく。


「ねえ、荻窪くんはもっと、自分を出していいと思うよ」


 その一言で、荻窪は自分の心が晴れ渡るのを感じた。

それはまるで、梅雨晴れのように。

また雨は降るだろう。それでも、いつか現れる太陽を待てば、頑張れるのだ。

荻窪はポケットに入れた硬貨を、ギュッと握り締めた。


おしまい
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