春。[短編10P][ホラー]
「パパ遅いね」

 珪夏が時計を見る。20時だ。


「パパは毎日残業なんだから、いつも21時過ぎに帰ってくるでしょう?」

 ご飯の支度をしなくては、そう思いながら私が答える。


「あのね……」

 珪夏が言いにくそうに俯いた。

「どうしたの?」

 ソファまで行き、隣に座って珪夏の背中に手をあてる。びくりと肩を震わせる。


「珪夏ね、さっきママが寝てる時に電話に出たの。パパの会社の人からだった……」

「何か言ってたの?」

「うん……パパに会議のことで聞きたいことがあるって」

「そう」


 わざわざ家に電話がくるとは珍しい。


「でね、最初にまだ帰ってませんって答えたの。そしたらね」



 そこで珪夏は言葉を区切る。


「いつも定時に帰るのにまだなんだね、携帯も繋がらないし、今日は寄り道かなーって笑って言ってたの」


 どういうことだろうか……。




「その後にいつもの変な電話もあったわ……」



「いつもの……変な電話?」


「ママがいつも困ってる電話よ」
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