春。[短編10P][ホラー]
「警部、これはどういうことでしょうか……」
若い刑事がハンカチで口元を押さえながら問う。皺の深い男が眉間に皺を寄せて言う。
「十数箇所も刺しているから恨みだろう。妻も刺した後に自殺しているようだな。夫婦仲はどうだった」
「この夫婦は近所でも知れた仲のいい夫婦でして、夫は会社で一定時間残業した後は飲みも断って帰っていた真面目な男だったようです」
「ほかに家族は?」
「それぞれの両親は離れて暮らしています。子どもはいません」
「そうか……」
皺の深い男は息を吐く。男も女も驚愕の表情で死んでいる。春は理解不能な事件が起こる。
「春はおかしい人が増えるといいますが、僕はこう思うんです」
若い刑事は良く晴れた外の方を向く。
「雪女みたいに、春にも人を惑わす春女みたいなのがいるんじゃないかって」
皺の深い男は何を馬鹿な…と言いかけて、ふと思い直す。
「そうかも……知れないな」
男はソファを見つめる。ピンクのワンピースを揺らしながら、妖しく微笑む少女が見えた気がした。
若い刑事がハンカチで口元を押さえながら問う。皺の深い男が眉間に皺を寄せて言う。
「十数箇所も刺しているから恨みだろう。妻も刺した後に自殺しているようだな。夫婦仲はどうだった」
「この夫婦は近所でも知れた仲のいい夫婦でして、夫は会社で一定時間残業した後は飲みも断って帰っていた真面目な男だったようです」
「ほかに家族は?」
「それぞれの両親は離れて暮らしています。子どもはいません」
「そうか……」
皺の深い男は息を吐く。男も女も驚愕の表情で死んでいる。春は理解不能な事件が起こる。
「春はおかしい人が増えるといいますが、僕はこう思うんです」
若い刑事は良く晴れた外の方を向く。
「雪女みたいに、春にも人を惑わす春女みたいなのがいるんじゃないかって」
皺の深い男は何を馬鹿な…と言いかけて、ふと思い直す。
「そうかも……知れないな」
男はソファを見つめる。ピンクのワンピースを揺らしながら、妖しく微笑む少女が見えた気がした。