ささやかな奇跡
「高耶さま」

書き物をしていた手を止めて、高耶はゆっくりと振り返る。
どんなに年月が過ぎても、その端麗な面差しは、いささかも変わることがない。

「月が出てまいりました」

はずんだ声を出す少女に、せかされながら縁側に出ると、秋草の茂る小さな庭のはるか上、暗い雲の切れ間から、丸い月が顔を覗かせていた。
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