迷える子羊、クールな狼
ジョセフは私の傍まで歩み寄ると、腕を後ろに組んだまま優しい眼差しで見降ろした。



「幸せなんて、幸せだなぁと感じているその瞬間だけなのです。」



私はあまりにも儚いその答えに聞き返した。


「・・・一瞬?」



「そう、ずっと幸せを感じている事など出来ないのです。

嬉しい事があって、ああ幸せだなって感じているその瞬間があれば十分なのですよ。

だから・・・」


ジョセフは私の頬にそっと手を添えた。

手袋越しに、温かな体温が伝わるー



「そんなに、いつも幸せでいようとなさらなくて大丈夫ですよ。」





頬を伝う涙は、ジョセフの白い手袋に染みを作った。

その染みは徐徐に大きくなってその手を濡らした。


「恵まれた自分を真剣に見つめる貴女は、それでもう、十分です。」



目を閉じ、ジョセフの手に自らの手をそっと重ねた。





「ありがとう・・・」
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