迷える子羊、クールな狼
今でも時々、窓を眺められるお嬢様のお姿は目にして。


しかしその表情は、以前のような思いつめた物悲しい物ではなく、何やら思い出すような遠い目をして庭を眺めている。





こうやって、言葉一つで心と気持ちを新たに出来るのは純粋無垢な子供の魂を備えているからで、


例え素晴らしく適切な言葉を述べたとしても、それを心の鐘に響かせられる大人は数少ない。


その分、まだ若いとはいえ年頃の女子が子供の心ながらに居られる事は貴重で。


私はこのお嬢様が他のどのご令嬢よりも美しいと感じられた。



ああ、こんな可愛らしい素直な方が王妃で在られたらさぞかし国は平穏であろう。


国は国王によって成り立つと言われる時代だが、私一個人の意見としては、国王ではなく王妃だと思う。


国王とてたかが男。


国政に疲れ政務に追われの人の体を労わるのは癒しで在り、それとなり得る妻がいれば、男・国王も明日への希望も見出せるというもの。


私は「妻」という存在をとても強く重要視していた。



そんな話を、勉強時間の片手間に述べてみれば、やはりお嬢様はその真っ直ぐな瞳で私の一言一言に聞き入ってくれる。


頷く事しかせず、意見をしてくる事はなかったがしかし、心と頭で様々な事を想い、考え、呑み込んでいるのだろう。



じっと黙って見つめる瞳がそれを物語っていた。

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