―百合色―
『─あの!』


『はい?』


今日の病院は、一番最初に来たときより、不気味ではなかった。

待合室でのテレビの、野球中継の音が聞こえてくる。


その試合を、つまらさそうに見ている人や、
テレビに向かって、応援している子供たちもいた。


俺はその光景を見た時、
微笑んだ。



『どうかされました?』


俺は看護師の言葉にハッと我に返る。


『あっ…あの、鈴木百合が退院したと聞いたんですが…』



『あぁ、百合ちゃんね!
私、担当だったから知ってるわよ!』


看護師の人は、
俺に優しく笑った。


『それで…百合は?!』



『今さっき退院していったわよ?ついさっきよ。
私も見送って戻ってきたところだから』



『え…もういない?』



『えぇ。家族の人と退院していったわ。すれちがいみたいだったわね』



俺はクルッと向きを変え、また走り出す。
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