―百合色―
『ちょ…あなた!』


看護師の声など聞こえるわけがない。



百合がいない?
遅かったか。


何だよ…結局神様は俺の事が嫌いかよ──…



俺は、走る。
くそ暑いこの世界を、
汗を流しながら、俺は走る。


次に向かう場所。


百合があると願って、
俺は目的地へと走る。


『はぁ…はぁ…』



息が切れようと、
足が疲れていようと、
俺はどうでもいい。


壊れたっていい。


百合に会いたくて、会いたくて…苦しい。


この苦しさに比べれば、
今の俺なんて軽いもんだ。


『百合…どこにいるんだよ…』



しばらくして、目的地に到着をした。


百合は…いなかった。



ベンチに座り、息を整える。



そして、携帯を取りだし、百合に電話をかけた。



でも、電話は繋がらなかった。


あの事故の日と、同じままだった。
< 183 / 353 >

この作品をシェア

pagetop