―百合色―
ココアのいい香りが、
鼻の中へ入っていく。


『あの…話って…』


優さんは一口エスプレッソを飲み、俺の方を見た。


『百合から聞いたよ…
別れたんだって?』


俺はかきまぜていたスプーンを置き、

『はい…』


とだけ言い、温かいココアを口に含んだ。


『百合が泣いててね…』


『違います…別れたのではなくて…百合を自由にしたんです…』



『自由?』


『…はい…俺…だめな人間だから…もっと自分を磨いて…百合を連れ戻したいんです…』


次第に温まってくる体。

グルグルと回っているココア。


ココアに吸い込まれそうだ。

俺は気持ち悪くなりそうだったので、ココアを見つめるのをやめた。


『光輝君…君は僕と似ているね…』


優さんの方に視線をずらすと、優さんは微笑んで俺を見ていた。
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