COLORS【藍】 藍暖簾 (with響紀様)
「あたし、貴女には負けないんだから。直人の心を貴女からあたしに移すからね」
「人は強引にされると動かないものだよ。彼の気持ちが自然にあなたに移るのなら仕方の無い事だけどね」
余裕たっぷりの藍子に悔しいと思うのであった。
「一つだけ教えてあげる。あたし、直人とキスしたの」
「そう」
子供ではあるまいし、キスの一つや二つで動揺することでもない。
おそらく、この女のことだから酔った勢いで無理やりしたのだろうとしか思っていない。
瑠璃は優位な意見を言っているはずなのに、言葉に出せば出すほど自分に焦りが出ている感じがしてならないのだ。
それを悟られないように勝気な笑顔を放っている。
「ねぇ、勝負しない?」
「何をだい?」
「決まっているじゃない。直人と先にデートできたほうが直人と付き合う権利を持つ」
普通うに考えて店を構えている藍子は不利。
瑠璃はこれで直人を振り向かせる事が出来るとほくそ笑んでいた。
「わかったよ」
この子は一度言い出したら利かないタイプのようなので引き受ける事にした。
他の客もポツポツと暖簾を潜ってきた。
この小さな店で小さなバトルが行われているのを知っているのは、鍋の中のおでん達だけである。