僕等が保つべき体温の最大
圭一にとって、それは救いであったのか?それとも残酷な現実だったのか?

ただひたすらおばさんの言葉に聞き入っていた。

「圭一君はもう気付いているんだろうけど、結衣はもうこの世界にいない。あなたがどんなに求めても、結衣はそれに応えることが出来ない」

それは、どこか自分に言い聞かせているようでもあったが、おばさんは圭一の目を見つめてさらに続けた。

「だから、結衣のことはうまく整理しなさい」

「整理?」

「そう、整理。うまく言えないけど、忘れてもらっても困るの。でも、あなたが結衣に縛られるのはもっと困る」

おばさんは、丁寧にひとつひとつの言葉を重ねていく。

「だから、うまく整理して。せっかく”そこ”から出て来れたんでしょ?」

自分の心の中に浮かび上がった結衣の顔。圭一はようやくそれと向き合う。

「僕は、結衣に会いに来ました」

「これからもそうして。いつでも来て」

圭一は黙って頷く。

自分をありったけのやさしさで包んでくれるおばさんに甘えている。

忘れることも、忘れないことも。おそらくは同時にやってのけたおばさんの強い心にふれている。


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