僕等が保つべき体温の最大
「おばさん、俺はこの先いろんな人と出会うかもしれません」

「ええ、もちろん出会うでしょうね」

「でも、どんな人に会っても結衣の事を忘れられないと思います」

おばさんは何も言わずに黙って頷くと、話しの続きを待った。

「俺はずっと結衣といます。そしていつか誰かと出会います」

おばさんは首を傾げて考えている風なそぶりをしたが、少しして圭一に向かって呟いた。

「また遊びにきてね」

「また来ます」

軽く礼をして圭一は席を立つと、結衣の部屋をぐるりと見回した。

そこには結衣の温もりが残っていたのだろうか?

そうやって思ったとき、不意に圭一の目から涙が溢れた。

「ゴメン。ゴメンな…」

宙空を泳ぐ結衣はヒラリと翻る。

「俺は勝手だから。もう結衣を温める事が出来ないから」

雪山のあの日から硬く締め付けていた手を解くように圭一は結衣に向かった。

「許してくれな。ゴメンな」

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