僕等が保つべき体温の最大
駅に着き、電車に乗り込むと圭一は転げ落ちるように眠りについた。

体中から力がスルスルと抜けて、心地良すぎるくらいによく眠った。

そんな眠りの中で圭一は夢を見た。

広すぎるくらい広い空をはばたく鳥の夢を。

その鳥は大きく旋回を続けると、やがて圭一の事を見つけゆっくりと降下してきた。

圭一が両手を空にかかげると、その鳥はスッポリとその手におさまった。

柔らかい羽毛で包まれたその身体は、小さく脈を打ち続けていて、圭一はそれが壊れないようにその両手でそっと包みこんでいた。

そのぬくもりは夢なのに妙にリアルで、その温かさを圭一は何時までも感じていた。

やがて圭一は目を覚ます。

そこは自分が帰る部屋がある駅よりずっと手前で、圭一が通う学校がある駅だ。

圭一がここで降りる理由は今は無い。

しかし、圭一は誘われるように電車から降りた。

帰宅時間で混み合うホームの中。圭一は見つけていた。

待ちくたびれたように立ち尽くしている菜緒の姿を。

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