僕等が保つべき体温の最大
圭一が電車の入るホームに立つと、その後に菜緒は立った。

「あれ?方向?」

「こっちでいいの。前は照れ臭くて」

そんなに遠い昔じゃない。菜緒は自分と同じ方向に帰る圭一を見送る自分の姿を思い起こしていた。

「そうなんだ」

圭一は笑いながら電車が入ってくる方を見ていた。

先に反対側のホームへ電車が入った。

「あれ?あっちか?」

圭一の前に立っていたサラリーマンが慌てて振り返ると反対側のホームに向かった。

それによって、圭一と菜緒は列の1番前に立った。

アナウンスがもうすぐ電車がくることを告げ、電車が遠くに見えた。

「痛たっ!」

さっきのサラリーマンが人にぶつかってよろけた。

”ドンッ”

そしてそのまま菜緒にぶつかった。

「危ない!」

誰が叫んだか。菜緒はホームからよろけて落ちそうになる。

「神木さん!」

圭一はすかさず手を伸ばした。

菜緒もその手を掴もうと手を延ばす。

しかし。菜緒の手は大きく空をきり線路に落ちていった。

失われた右手は掴む事が出来なかった。

”ギギギギギギギーー!”

電車は物凄い轟音を上げてホームに入って来た。

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