僕等が保つべき体温の最大
「ダメだよ」

圭一は続けた。

「いきなり後ろから声かけちゃ」

”なんで?”

思いはするけど、声に出せない。

圭一は更に続けた。

「見えないんだから。暗闇でいきなり肩掴まれたらビックリするだろ?」

そこまで聞いて、菜緒は始めて自分のしようとした事に、ゾッとした。

ここは、階段だ…。足を滑らしでもしたら…。

「行こう」

圭一は、菜緒の腕を引っ張りその場を離れた。

「え?でも…」

「大丈夫だから」

圭一は、菜緒に優しく微笑みかけてきた。

圭一が自分に向けて笑いかけている。

そうなったら、言葉の意味など考える間もなく従ってしまった。

階段から少し離れたところで、圭一は菜緒の腕を離した。

「ごめんな。大丈夫?」

菜緒は、コクりとうなずきながら、今まで圭一に掴まれていた腕をさすっていた。

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