僕等が保つべき体温の最大
圭一がしたことは親切で、自分がしたことは(しようとしたことは)お節介だ…。

そう思うと菜緒は、顔から火が出るおもいがした。

「ゴメンナサイ」

「だから、何で?」

聞かれても菜緒は顔をあげられず、黙って下を向いていた。

「いい人なんだね」

圭一に言われて、菜緒は更に落ち込んだ。油断したら泣きそうだった。

その時、そっと圭一が左手を差し出した。

「俺は波多野圭一。君は?」

菜緒は、黙ったまま圭一の手を見つめている。

「はは、おかしいよな、左手で握手なんて」

「そんな事ない!」

慌てて掻き消して、菜緒は圭一の手を握りかえした。

圭一の手は、ものすごく温かい。菜緒は複雑な思いを抱えながら、ようやく圭一の質問に応える。

「神木…菜緒です…」

圭一は、一瞬ピクリと何かに反応したようだったが、「よろしく」と返事を返してきた。

その時ホームに電車が入ってきた。

「それじゃあ」

圭一が慌てて駆け込むと電車は走りだした。

菜緒は、ただ呆然と自分も乗るはずだった電車を見送った。

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