僕等が保つべき体温の最大
「ただいま」

呼びかけると結衣は、部屋の真ん中で振り返り、圭一に笑いかけた。

絵を描いていたようだ。

結衣は部屋にこもっている間、こうやって絵を描いている。

昔から結衣は、絵が好きで得意だった。

ただ、ずっと描いている割にはなかなか進まない。

あの事故以来、結衣は1枚として絵を完成させていなかった。

覗き込んで見ると、やはり昨日から何も変わっていない。

結衣は、ただひたすらキャンパスを見つめていた。

圭一はたまらなくなって、飲み物を取りにその場を離れた。

絵が進まない理由。

考えなくても、絵を見れば一目瞭然だ。

昔の結衣の絵は素晴らしかった。

猫やら犬を描けば動き出しそうだったし、一目見た景色であれば、まるで写真みたいにその場に描き出すことができたのだ。

でも今は、それが出来ない。

あの事故は、結衣から絵を描く才能すらも奪ったのだ。

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