僕等が保つべき体温の最大
「圭一は、その後変わったんだ」

笑うようになったという。

そもそも彼女が出来た事で周りの反応が変わったのもあったようだが、やっぱり結衣の存在は圭一の心をほぐしたのだろう。

”自分が認められたんだ”

上辺だけの言葉や心ない行いや、圭一を苦しめていたすべてから、結衣は救い出した。

圭一は自分が居る場所や時間でさえ、結衣に教えて貰っていたのかも知れない、と洋太は呟いた。

その言葉のひとつひとつは、確実に菜緒を打ちのめす。

「ふたりの会話は、いつも他愛もないものだったけど、それを重ねるだけで満たされているのが見ていても良く分かった」

「全くかなわないね…」

泣くことが出来なくなった菜緒は、心臓が破裂しそうなのを抑えながら、強く言った。

「確かに幸せだったろうね、あの頃は…」

「あの頃?」

洋太は目を伏せて少し先を眺めていた。

そして、スッと息を吸い込むと、雪山の事故のことを話し始めた。

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