僕等が保つべき体温の最大
ひとことで言ってしまえば、硬い絆でむすばれたふたりだ。

運命的な出会いをして、命すら分け合ったのだろう。

はたから聞いていれば、感動的な恋愛話だ。むしろ憧れてしまう。

そんな話しを聞かされて、冷静でいられるほど菜緒も大人じゃない。

”ふたりは乗り越えたのだろうか?”

そんな意地悪な感情が、菜緒の身体を満たした。

同情だとかより、自分が直感的に感じた感情の意味の方が知りたかったのだ。

圭一の苦しそうな表情。あれは、その事故が原因なんじゃないだろうか?

圭一のあの手。その事故は失わなくていいものを失ってしまったんじゃないだろうか?

ひとつひとつを紐解く事は残酷かもしれない。それは菜緒を余計苦しめるかもしれない。

それでも知る必要があると菜緒は思った。

それはとても不思議な感覚だった。決して正しい事に思えないが、それが自分の役割である気がした。

「波多野君のあの手は…」

しゃべり出すと口が勝手に動くようで、菜緒自身はひどい耳鳴りをただ聞いていた。

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