僕等が保つべき体温の最大
「やっぱり…」

菜緒は今聞いた事をひとつひとつ丁寧に整理しながら、しゃべりだした。

「やっぱりかなわない。私なんかが好きとか言えるはずがない」

洋太は、菜緒の言葉を黙って聞いていた。

「でも、聞かせてくれてありがとう」

圭一は、ものすごく真っ直ぐ人を愛せる人だ。それが分かって菜緒はうれしいと思った。

「そういう人を好きになれてよかった。そういう人の邪魔はしたくないから、あきらめる」

菜緒は礼を言って立ち上がろうとした。できれば今はオモイッキリ泣きたい。

「圭一は、あの日のままなんだ」

菜緒が行くのを阻むように、洋太は話し出す。

「え?」菜緒は、聞き返すと立ち上がるのをやめた。

「圭一のあの手。見てのとおり手首から先が無いけど、圭一は無いと思っていないんだ」

菜緒は意味が分からなかった。それを見て洋太は詳しく話す。

”幻肢”というらしい。無くなった身体の一部を脳の中で作り上げるのだそうだ。

菜緒は何も言えなかった。

「圭一はあの日以来、見えないモノが見えてしまうんだ」

洋太は苦しそうな顔で続ける。

「俺は圭一を助けたいんだ。神木さん。手伝ってくれないか?」

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