僕等が保つべき体温の最大
見えないものが見える。

それだけ考えると凄く深い闇の淵に立たされている様に感じた。

圭一の悲しみに触れると言うことは、その深淵を覗くことでもある。

”そこに辿り着ける事が出来たら…”

それは菜緒の望みではあっただろうが、正直なところ１番恐れている事でもある。

なぜなら、圭一には結衣がいるから…。

結局のところ、菜緒はこの事で苦しむ事をやめたいのだが、それをやめる事がとても切なくて苦しいのだ。

膝においたままの「ベニテング茸」が傘を揺らしてケタケタと笑っていた。

気持ちをどっかに飛ばしてしまった菜緒は、今にも雨が降り出しそうな空を眺めていた。

遠くでバタバタと走り回っている人がいる。

図書館なのに迷惑な人だ。

その足音は誰かを探しているようで、アチコチを駆けているようだった。

やがて足音が近付いて来たかと思うと本棚から人影が覗いた。

「神木さん！」

そこには息を切らせた 洋太が立っていた。
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