僕等が保つべき体温の最大
次に気付いたとき、圭一は教室の中にいた。

懐かしい高校の教室。

雨上がりの湿った空気が辺りに立ち込めていて、蒸した部屋の真ん中。結衣は絵を描いていた。

キャンバスには雨に濡れた鳩が描かれていた。窓際に目を向けると、何羽かの鳩が羽根を休めていた。

ずぶ濡れの鳩は物憂げな表情でそこに描き込まれている。

圭一にはそれがみょうに可笑しくて、笑ってしまった。

突然の雨にうたれて仕方がなく雨宿りをしている所を結衣に見つかってしまったマヌケな小動物を愛おしく感じた。

同時に、皮膚の下に沢山の細い血管を張り巡らし、それらが作り出す体温の発散を濡れた羽根で防ぐ動物はとても生々しくも見えた。

そして、結衣の絵からは、まるでその鼓動が聞こえてくるようだった。

雨が上がり、急激に日差しが伸びていく。

その光はカメラのフラッシュのようにひろがり、それに目をやられて圭一はまた闇の中へ。

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